13 再会, 母よ...
結局のところ、ガンダムとは何か。「モビルスーツ」である。モビルスーツとは何か。巨大ロボットである。巨大ロボットとは何か。戦争で使用する武器である。ということは少年がロボットに乗る「ロボットアニメ」とは、とどのつまり「なぜ少年はロボットに乗るのか」「本当に乗っていいのか」を常に問い返し、意味づけしなおすメディアである。そう言いきってしまっていい。
「機動戦士ガンダム』ではこれまで「ガンダムに乗ること」を究極「未亡人の大量生産装置」「敵を作り出すメカニズム=敵の再生産」としてばかり意味づけてきた。ただ、アムロがそれでもガンダムに乗るのは「乗らないと自分が、仲間が殺される」からだ。その一点、つまり「自衛」という目的に限って言えば、戦争は軍隊は兵器は武力は正当化されうる。
ところが、その「自衛」というロジックだって「これで結構あやしいものだ」と切り捨てていくのが今回なのである。「再会、母よ...」とタイトルにあれば、我らがヒーロー、アムロにも、久方ぶりの癒しが待っている。視聴者としてはそう期待しそうになるのだが、真逆だ。アムロは戦う(正当な)理由をどんどん奪われていく。
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アムロの出自
そもそもアムロは「誰」なのか。それが実は今まであまり語られてきていない。
寝食忘れるくらいの超過集中ロボットオタク=エンジニア
どうやら地球生まれ
父親と二人暮らし(母親とは生活していない)
くらいしかわかっていない。
「地球生まれ」と言われると、なんかわかった気になってしまうが「だからその地球って何?」って話である。
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その説明をしているのが、ビーチで水着で休暇を楽しむセイラの一言だ。
セイラ:太陽の光が1か所から来るってわざとらしいわね
不自然を「自然」としてきたスペースノイドからすれば、自然であることはなんと「不自然」なのだろう。そうした逆転がある。『ガタカ』という映画がある。人類が全員試験管でデザインされて生まれてくる世界を描いた作品だが、その世界では子どもをつくる=試験管で受精させるのが当たり前で「自然」であるため、セックスによる子づくりは「不自然」(unnatural)だとされていた。それと同じだ。
アムロはそんな地球で生まれ、宇宙で育った、マージナルな存在として描かれている。
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カイ:へっ裏切られたな やつもエリート族かよ
ミライ:地球に住んでる人がみんなエリートじゃないわ 現にアムロのお父さんは宇宙暮らしで アムロはお母さんとはほとんど暮らしたことがないのよ
カイ:地球に家があるだけでもエリートさ
カイのこの発言からわかるのは、どうやらカイは地球生まれではなく、宇宙生まれだということだ。
アムロとカイはどちらも「エンジニア」である。また、ホワイトベースの中では「パイロット」、それも「戦闘能力が比較的高い」パイロットである。だからカイはアムロに親近感も持ってはいる。「同じ」だと感じている。
他方で以前描写があったように、アムロはリュウと同じ「正規パイロット」扱いをされているが、カイはそうではない。食事の量からして違う。そしてカイは宇宙生まれなのに対し、アムロは地球生まれ。だからカイからすれば「同じ」はずのアムロが自分と「違う」のが許せない。だから「裏切られた」と言っている。
これに対し、ミライは「あのヤシマ家の」と言われるくらいだから(1 ガンダム大地に立つ!!)、かなりのエリートだ。そのエリートが「地球生まれがみなエリートなわけではない」と言っているのが皮肉だ。
次に、地球で生まれたアムロが、なぜ宇宙で育つことになるのかが回想シーンで説明される。
ティム:アムロと離れるのがイヤならお前も来ればいいんだ
カマリア:でも宇宙に出るのは....
ティム:サイドの建設を見てごらん そらすばらしいもんだよ アムロに見せておきたいんだ
カマリア:それは分かりますがでも私は....ごめんねアムロ 私は宇宙の暮らしってなじめなくて....
非常に短いシーンだが、情報量はかなり濃い。アムロについてもだが、アムロの母親=「カマリアとは誰か」の説明として。
まず、カマリアとは、たとえ我が子と離れ離れになったとしても、それでも地球にとどまり続ける。それくらい「宇宙暮らしがイヤ」な女だということがここからわかる。「子どもがそんなに好きではないのでは?」という解釈もここだけからならできるが、その後、カマリアは「子供を愛さない母親がいるものかい」とまで言っているし、別れ際に何度もアムロにキスをしている。少なくとも主観的には「アムロのことを愛している」ことは間違いない。
対して、連れ去られるアムロは見た感じまったく悲しそうではない。物心がまだついていないので母親と離れることを理解していないのだろうが、しかし自分には「これから宇宙で
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カマリア:あ...あの人たちだって子どももあるだろうに / それを鉄砲を向けて撃つなんて... / すさんだね
アムロ:じ...じゃあ母さんは僕がやられてもいいっていうのかい!?せ...戦争なんだよ!
カマリア:そ...そうだけど / そうだけど人様に鉄砲を向けるなんて!
アムロ:母さん...母さんは...僕を...愛してないの?
カマリア:そんな...子供を愛さない母親がいるものかい
アムロ:うそをつけ!
....
カマリア:私はお前をこんなふうに育てた覚えはないよ / 昔のお前に戻っておくれ!
アムロ:今は...戦争なんだ!
カマリア:何て情けない子だろう!
カイ:空中換装をやってみるかい?
アムロ:よーし! いきなり実戦テストもいいだろうさ
カマリア:男手で育てたからかしら / あんな子じゃなかったのに...
ブライト:ア、アムロめ 何をしているんだ!
フラウ:敵の基地をやっつけているんでしょう?
ブライト:あんな地方の前進基地をたたく必要がどこにあるか! / カイもカイだ テストもしていないのに / 敵前でガンダムをドッキングさせたりして! / 単なる消耗戦なぞ / 今の我々には自分の首を絞めるに等しい
ミライ:ブライトさん...
ブライト:間違っているかね?
ミライ:いいえ
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